今回も、オバマ氏の演説術から学んでまいります。

皆さんも
誰かの言葉によって心が動かされた経験があると思います。

「心動かされる」というと
なんとなく嬉しいことばかりのような気がしますが
当然ながら、悲しいことがあったときも人は心を動かされます。

我々は、何かを”見た”時に心を動かされます。

目の前でプロスポーツ選手のスーパープレイを見たとき

海外に行って素晴らしい建築物や壮大な風景を見たとき

目の前で悲しい事件や戦争が起こったとき

我々は何かを”聞いた”時に心を動かされます。

素晴らしい音楽を聞いたとき

温かいはげましの言葉をもらったとき

遠くの国で銃声が鳴り響いているとき

ここに3人の男性がいます。

ジョン・ファブロー
アダム・フランケル
ベン・ローデス

この3人はオバマ大統領の就任演説を作成した
スピーチライターです。

オバマ大統領の演説はこの3人の手によって作られました。

彼らの生み出した言葉は
オバマ大統領というカリスマに乗って
数多くのアメリカ人の心を動かしました。

彼らはなぜ若くして(彼らはいずれも30才前後です)
大統領のスピーチを作成するライターになることができたのでしょうか。

そして、どうやってあんなに素晴らしいスピーチを
作ることができるのでしょうか?

ここでのポイントは、【人間性】なのです。
詳しく解説していきますね。

3人のライターの中で
チーフ・スピーチ・ライターである
ジョン・ファブロー氏は
今やWikiにも名前を連ねるほどの有名人です。

彼は、大学卒業後、2004年の民主党大統領候補になった
ジョン・ケリー氏の陣営で修業をしていました。

2004年の党大会で、無名の地方議員として
基調演説のリハーサルをしていたオバマ氏に
「重複する部分を削った方がいい」
とアドバイスしたのが縁で
05年に上院議員になりたてのオバマ氏のスタッフに
なったそうです。

私はこのいきさつを知った時に
「オバマ大統領は器の大きい人だなぁ」と感じました。

自分のスピーチに口を出してきた若者に対して
その助言をすぐに聞き入れて、自分の味方につけることができる人は
なかなかいないと思います。

話が脱線してしまいました。
ファブロー氏の話に戻りましょう。

ファブロー氏は常にオバマ大統領の自伝を手放さず
4年に及ぶ付き合いの中で
オバマ氏の思考方法や言い回しを完全に自分のものにしたそうです。

彼は、素晴らしいスピーチ原稿を作成するコツとして
下記のことを語っています。

『私は書くときにオバマになりきるのです
 彼のジェスチャー、声の出し方、イントネーション…
 自分が完全にオバマになって原稿を書くのです』

ここまでの徹底ぶりには驚かされます。

でも、私は彼の才能をもちろん信じてやまない一人ですが
彼の努力家の面を多々感じます。

彼は、きっと相当量の本を読み
そしてきちんと歴史を学んでいるのでしょう。

下記の2つの演説をご覧ください。

「南部には、こう考えていらっしゃる人がいるようです
 共和党が政権を握ったために
 自分たちの財産や平穏や個人の安全が
 おびやかされるのではないかと
 そんな懸念をいだくなんら正当な理由は
 これまでも存在しません
 実際、その反対であることを十分に示す証拠が
 常に存在していたのです
 そして調べようとすれば、いつでも調べられたわけです
 その証拠は、今あなた方に演説している私のスピーチの
 印刷されたもののほとんど全ての中にも見出すことができます」

「まだどこかに
 アメリカという国ではどんなことでも起こりうるということが
 信じられない人がいるのであれば
 アメリカ建国の理念が今日も生きていることに
 まだ確信が持てずにいる人がいるのであれば
 アメリカの民主主義の力に疑問を呈する人がいるのであれば
 今晩がその答えです」

どことなく似ていませんか?

上の文章は
リンカーン大統領の大統領就任演説の冒頭で

下の文章は
オバマ大統領の大統領就任演説の冒頭です。

実は、人の心を動かす文章を書くにはある程度のコツがあります。

あなたがたくさんの名演説を聞き、そしてたくさんの書籍を読み
歴史をはじめとした教養を身につければ
人の心を動かすようなスピーチを考えることは十分に可能です。

逆に言えば
努力しないで、人間性も磨かずして
人の心を動かすような文章を書くことは絶対にできません。

本当に努力を重ねて人間性を磨いた人にのみ
人の心を動かす文章を書くコツが見えてくるのです。

たくさん勉強し、教養を身につけ、人間力を磨く!

これこそが、最も確実で最短の「人の心を動かす法」です。

底の浅い人間のスピーチは、一時は心に残るかもしれませんが
すぐにどこかへ消えてしまいます。

逆に、人間として魅力のある人から発せられた言葉は
永遠に心に残ります。

言霊(ことだま)という表現があるように
言葉には魂があるのかもしれませんね。