プロ野球楽天イーグルスの名誉監督である野村克也氏を
知らない方は少ないでしょう。

「理想の上司」として上位にランクインするなど
プロ野球ファン以外からの支持も集めている大御所です。

野村氏は

南海 → ヤクルト → 阪神 → シダックス(社会人球団) → 楽天

の監督を歴任し、
それらのチームはすべて就任当初最下位でした。

しかし、野村氏が就任して指揮を執ったチームは
確実に強くなっていきます。

当然のことながら
弱い球団にはお金があまりなく
なかなかスター選手を獲得することができません。

野村氏は、豊かとはいえない戦力を駆使しながら
チームを優勝に導いていったのです。

中でも、野村氏の真骨頂は
他球団を解雇された選手やスランプに陥っている選手を
復活させるという能力です。

【野村再生工場】とも呼ばれていましたね。

これは、経営者はもちろんのこと
日ごろ部下の扱い方に悩んでいるサラリーマンにも
必見の内容ですから、じっくりお読みください。

さて、その【野村再生工場】の最高傑作は
山崎武司選手だと言えるでしょう。

元、中日ドラゴンズの山崎武司選手は
1996年ホームラン王に輝きます。

が、翌年に中日の本拠地が
ナゴヤ球場からナゴヤドームへ移ったことにより
外野が広くなり山崎選手の守備の負担が増えたことなどから
打撃成績を大幅に落としてしまいます。

その後は
ホームラン王を獲得したときのような活躍ができずに
2003年にオリックスに移籍するも
2004年9月に戦力外通告を受けて
現役引退の危機にまで追い詰められてしまいました。

2005年に楽天に入団しましたが、このときの年齢は37歳。

多くのプロ野球ファンは
山崎選手の今後の活躍については懐疑的でした。

しかしながら、野村氏のアドバイスを受けて
2007年には再度ホームラン王、そして打点王に輝きます。

38歳でのホームラン王、打点王の獲得は
それぞれ歴代二位の年長記録です。

山崎選手は
「若いときは本能でやっていたが
 年齢がいくと準備が必要で
 最初はわからなかったが少しずつ結果がついてきた」
と後に語っています。

若い選手ならともかく
旬の時期を過ぎたかのように見えた山崎選手の復活を
野村氏はどうやって演出したのでしょうか?

野村氏は山崎選手の復活方法について
あるテレビ番組でこう語っていたのを観たことがあります。

「監督は気づかせ屋だ」

「ちょっとしたヒントが彼を変えたと思う」

「結果主義の世界だと皆が言うけど
 プロセスが大事で、原理原則に則ってやるのが野球で
 野球には≪理≫がある」

「一人ひとり能力が違うし、育ってきた環境も違うので
 質問をぶつけて探り出していく」

「自信・信頼・信用とかをベースにしている」

「体力・気力を問題にしているようなら
 プロ野球はやめなければならない
 精神論ではやれない」

「リーダーの力量以上に組織は強くならない」

私は
野村氏の言う「監督は気づかせ屋だ」という言葉に
非常に納得できました。

これは

「上司は気付かせるのが役目だ」
「経営者は気付かせるのが仕事だ」

と言い換えてもよいかもしれません。

おそらく野村氏は山崎選手に対して
「こうしたほうがいい!」「こうやれ!」
とは決して言わなかったのだと思います。

むしろ上手に根気強く質問を続けることで
山崎選手に打撃の極意を”気づかせた”のではないでしょうか。

そうであれば、先の野村氏の発言

「ちょっとしたヒントが彼を変えた」
「プロセスが大事で、原理原則に則ってやるのが野球」
「質問をぶつけて探り出していく」
「精神論ではやれない」

という言葉も腑に落ちます。

では、なぜ相手に”気づかせる”のが大事なのでしょう?

人間は誰でも
命令されたり強制されたりするのが嫌いです。

たとえ、それが正しいことであったとしても
反発心が生まれてしまいます。

なぜならば
その人にはその人なりの理由があるからです。

もちろんその理由が、世間的には非常識であったとしても
本人はそれに気付かずに反発心を抱きます。

ここが重要なポイントなのです!

たとえば、よく遅刻をする社員Aさんがいたとします。

上司はその社員Aさんに対して
「ちゃんと朝早く起きて、遅刻するな」というもっともな指示を出します。

しかしながら、言われた側(社員Aさん)は
「昨日は夜遅くまで起きていて
眠いのに頑張って会社に来たのに怒られるのは心外だ!」
という、非常識な(本人にしてみたら正当な)反発心を抱きます。

本来であれば
「それはあなたの問題であって、会社のせいじゃないでしょ」
と言われてもおかしくありませんよね。

何が言いたいのかというと
たとえどんなに正しいことであっても
相手に対して命令したり強制してしまうと
逆効果になる可能性が高いということです。

それに対して
本人に「遅刻をしてはいけないんだ」と
気づかせるようにすれば、遅刻はなくなるのです。

なぜならば

人は自分の意志には逆らえない

からです。

忍耐強く質問を繰り返し、上手な気づかせ屋になる

これぞ『溝口流(野村流?)人材活用術の極意』です!!

「命令するのではなく、根気強く粘って相手に気づかせる」

口で言うのは簡単ですが、実行するのはすごく大変です。

頭でわかっていても実行できないことは
世の中には多いですからね。

相手に気付かせるためのコツとしては
相手の気持ちに立って考えるといいと思います。

つまり、相手が考えるであろう理不尽な理由を
想像してみるのです。

先ほどの社員Aさんの例で言うと

遅刻が悪いことであるという事実よりも
眠いのに頑張って来たのに
非難されたと思うんではないか

という、相手のわき起こる反発心を想像して
冷静に対処するのです。

あえて時間をおいてから
相手が自然に気がつくように導くのも
一つの方法かもしれませんね。

どんな人間にも感情はあります。

それをうまく理解してあげながら
問題がある部分を”気付かせることで修正していく”

これができれば、あなたも名将です。

部下から慕われるのはもちろんのこと
勝負の世界でも勝ち抜くことができるでしょう。